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【本の概要】
沈まぬ太陽/山崎豊子/新潮文庫 沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫) 第1巻 - アフリカ篇・上 第2巻 - アフリカ篇・下 第3巻 - 御巣鷹山篇 第4巻 - 会長室篇・上 第5巻 - 会長室篇・下 前に読んだのは、社会人1、2年目ぐらいだったと思います。 敬愛する上司に薦められて手に取りました。 当時の感想は、恩地へのひどい仕打ちに同情し、 御巣鷹山事故の凄惨さに涙し、 大企業病で余命幾ばくも無いような国民航空の呆れる体質、 親方日の丸である慢心、会社を食い物にする魑魅魍魎の輩に憤慨し、 このどうしようもない会社はいつか潰れてしまうんじゃないかと思ったものです。 実際その後の日本航空のニュースを見て、 真っ先にこの本を思い出し「それみたことか!」とやるせない思いがしました。 それからずいぶん経ちますが、 先日テレビ放映された映画版「沈まぬ太陽」を見て 過去に読んだ小説に比べると 大事な部分が伝わってこないように思え、改めて読んでみたのです。 読後の感想としては、まず映画との比較になりますが、 この5冊分の内容もってして初めて、 ラストに恩地がアフリカで見る「沈まぬ太陽」という言葉が 深く読者の胸をえぐるのだと思いました。 文庫本5冊分を3時間半の映画にまとめるとなると どうしても色々とカットしないといけないでしょうし それはそれで仕方が無いと思いますが、 映画を見た方も、そうでない方も、ぜひ小説を読んで欲しいと思います。 映画では描ききれない部分の蓄積が、 ラストの感動に繋がっているように思いました。 次に小説そのものについてですが、 山崎氏の著作については 様々な文献の寄せ集めだとかパクリだとか色々言われていますが、 個人的にはその真偽にこだわりはなく、 純粋に1つの作品として見て、読み応えのある素晴らしい内容だと思います。 また、この「沈まぬ太陽」については 事実を元にした部分と創作が混ざっており 読者に誤認識を与えるとの批判がありますが 私はそれもまた良し、だと思います。 例えば、恩地のモデルとなった人物は、 実際には御巣鷹山事故関係の業務に就いていないとか、 恩地のような清廉潔白な人柄ではない、とか色々ありますが、 御巣鷹山事故は紛れも無い事実ですし、 その事故を起こした会社が存在する事も事実です。 その会社の体質、組合や労務問題、懲罰人事、 ナショナルフラッグキャリアであるプライドの高さと それに伴わない企業倫理の低さ。 御巣鷹山事故はこういった企業体質が招いた人災であり、 その後も尚変わろうとしない大企業の慢心と政治家や官僚との癒着、 国民航空を中心にあらゆる人間が利権をむさぼる構図は 全部とはいかなくても、例え半分でも事実であるならば、 本当に嘆かわしいことです。 飛行機を飛ばすことは命を預かる事であるという意識の希薄さは 読んでいて恐ろしいものがありました。 全てが事実ではないとしても、 こういった企業が実在し、実際に飛行機墜落という大惨事を起こしたわけで その社会背景も含めた日本航空問題の根深さについて 全くの素人である我々一般市民に興味を持たせた訳ですから、 この小説の存在意義は十分にあると思います。 悲しいのは、山崎氏の警鐘は結局日本航空には届かなかったという事でしょうか。 そして、読んでいて胸が詰まるようなやるせなさを感じたのは、 巨大企業を私利私欲の為に食い物にしている人間達が複雑に絡んだ構図は 御巣鷹山事故の教訓を胸に安全運行の為にと心血を注いだ人々の熱意をもってしても 結局変えることができなかったという点です。 「誰の為の、何の為の会社なのか?」 この一言に尽きます。 この小説に於いて言うならば、 国民航空は一部の人間の私利私欲、虚栄の為の会社なのでしょう。 もちろん、国民航空には心ある従業員もいますし、 不正を正そうとするのですが 利権を守りたい輩の画策によってその動きを封じられ ついには追い出されてしまう・・・。 皮肉なもので、私利私欲の為の駆け引きを得意とする一部の人間が 権力の座を掴み、会社を動かしていき、結局は会社全体の色となってしまうんですね。 これは他の会社でも同じだと思います。 まじめに誠実に、とコツコツやっている人間が出世できるのは珍しいケースです。 結局上の人間にうまく取り入り、自分の成果を上手にアピールした人間が気に入られ、 出世していく・・・ 私自身、こういうケースをいやという程見て来ましたので そういう点でも虚しさを覚えました。 群がる害虫によって崩れかけた巨体が腐臭をまき散らし 今もなお国民の血税を吸いながら存在し続けている事に 人間の欲とは恐ろしいものだな、と思うのです。 そして今の自分は、恩地のような立ち振る舞いができるだろうか? 10年前にこの小説を読んだ当時の私は、 「私なら行天や、その他の悪人のようにはならない!」と憤慨したものでしたが、 あれから転職を経験し、大企業に入り、挫折を味わった今は少し感想が違います。 結局、長いものに巻かれるのが、一番楽な道だと思う自分もいるのです。 今の私は、正義を貫く為に、波風を起こしてまで動くことができるか? 10年を経た自分が同じ小説を読んだ時の感想の変化は、 自分の成長・・・というよりも、むしろ堕落というか 自分の魂がだんだんと汚れて来た事に気づくわけです。 良くも悪くも大人になったとでも言いましょうか。 そういう意味でも、何年か経ったら また読んでみたいと思います。 その時、私はどんな感想を持つかしら? そういえば、先日、会社の飲み会でこの本の話が出ました。 というか、私が「今読んでます」って話したのがきっかけなんですが。 驚いたのが、社長、取締役のみなさんは全員この本を読んでいた事です。 社会人なら一度は読むべきという意見も出ました。 そいういう意味でも、この本の扱うテーマの重さ、難しさに加え 日本航空だけではない、悲しくも普遍的な問題である事を感じました。 また読みたい本、 社会人ならば、ぜひ一度読んで欲しい本です。 恩地の姿をお手本にせよ、という意味ではありません。 もっと広い視野でこの小説の世界を捉えてみると 今迄とは少し違う角度で世の中を見る事ができると思うのです。
by kei-_-happy
| 2011-03-10 10:38
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